(海賊版)【ゆっくり文庫】カート・キャノン「幽霊は死なず」
①、原作について
原作は1953年に「Die Hard」というタイトルで発表された。
カート・キャノン名義で書かれているが、作者の正体はエド・マクベイン。
エド・マクベインは、ジャズ・ミュージシャンに憧れたり、画家になろうと美術大学に入ったり、
自身の才能に絶望して軍隊に入隊したり、兵役中に読書に目覚めたり、職業訓練校の教師になったり、
かなり破天荒な経歴を歩んだ末に小説家となった。
小説家としての腕前はピカイチで、量、質ともに高く評価されている。
(アメリカ探偵作家クラブ・巨匠賞、受賞)

(エド・マクベイン)
翻訳された時代は1963年。
『鉄腕アトム』のアニメ放送が始まった年だ。
しかし、原作を読んでいただければ実感できるが、ビックリするぐらい現代的なのだ。
中学生時代の私でも、スラスラ読めるほど、自然で、味のある言葉遣いで、まるで魔法のようだ。
翻訳者は都筑道夫。
ちなみに、この都筑道夫も只者ではない。
翻訳家であり、雑誌編集者でもあり、そして作家でもある。
ついでにいうと都筑道夫はカート・キャノンシリーズに惚れ込み、自分でもカート・キャノンの贋作の続編を6作品も執筆している。
(もちろん、本家に執筆許可を取っているが、それにしたって普通はそんなことしないよ!)
それほど愛された作品だったのだ。
②、動画制作について
今回の動画は、正直、作りにくかった。
道具には向き不向きがある。
YMM(ゆっくりキャラ)はコメディやパロディのような明るい作品を動画化することには適しているが、
ハードボイルドのような暗く、暴力的で、性的で、殺伐とした話を表現するには向いていない。
ひょっとしたら、たまたま私がそう感じただけで、一般的には真逆なのかも知れない。

それでも、この画面を作れたときは大喜びで飛び跳ねた。(かっこいいでしょ!)
③、「幽霊」とは何か?
「原作について」でも触れたが、元々のタイトルは「Die Hard」。
日本語の「幽霊は死なず」は翻訳者の都筑道夫が生み出したタイトルである。
私はこのタイトルが好きだ。原作の「Die Hard」というタイトルは一連の語呂合わせの一部であり、
単発のタイトルとしては「幽霊は死なず」のほうが適しているとすら思っている。
もちろん、私の感性が唯一解ではない。(正解は無数に存在すべきだ!)

そのうえで、これから先の解説文を読んでもらいたい。
「幽霊」とは何か?
言葉を変えよう。
キャノンを酒に、ジェリイを麻薬に駆り立てたものは何なのか?
キャノンのほうは分かりやすい。
動画内でも何度も出てくる、妻と親友の不倫騒動だ。
ジェリイはどうだろうか?
こちらは少し妄想力が必要になってくる。何せ、動画や原作で説明されていないのだ。
それでも妄想で物語を補うことはできる。本人が認める通り、キャノンとジェリイには共通点がある。
キャノンには妻が居て、ジェリイには婚約者がいた。過去の二人はそれぞれ幸せだった。
――そして、それは同じように終わった。

ジェリイの婚約者は(ジェリイを救うためとは言え)、あっさりキャノンに抱かれた。
おそらく、そういう行為に強い拒否感を抱くような人物ではないのだろう。
もちろん、それ以外の可能性もある。
単純にジェリイの勘違い、無鉄砲な冒険の結果、その他の失敗……
悲しいことに、人間が絶望する理由はいくらでも存在する。
ただ、私は幽霊の正体を「不信感」だと思っている。
④、消せない不信感
「不信感」というものは本当に厄介なもので、冗談が冗談に聞こえなくなり、
親切さが慇懃無礼と感じるようになるうえに、忠実さは面従腹背と受け止められる。
皆さんにも、苦い思い出の一つや二つはあるだろう。
一度芽生えた「不信感」が消え去ることはそうそうない――

キャノンも、ジェリイも、幽霊を殺せなかった。
幽霊は死なない。

(次回はもっと明るい動画を作ります! お楽しみに!)
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